どこで他人を評価するか？

年を取るにつれ、色々な価値観に触れることで、何を基準に人を評価すればいいのか分からなくなる。評価するというと語弊があるかもしれないが。

この前、久しぶりに高校時代からの友人と飲みに行った。最初は他愛もない話をしていたのだが、大人のました男同士である、そうそう話題があるわけでもない。何も話すことがなくなると、大体思い出話か愚痴を聞くことになる。思い出話も愚痴も、話すのは好きではないが、聞く分には我慢できる。そして今回は後者、愚痴のケースだった。
この友人、行動力があり、勉強も熱心にするタイプ。高校時代の成績も良かったのだけれど、高校卒業後、大学へは進まずに、早く社会を知りたいという理由から工場で働き始めた。見た目は派手だけれど遊び方は地味で、お金遣いも大人しい。
彼は、高卒で働きながらも、独学で色々と勉強を続け、今では副業でかなり稼いでいると言っていた。実際のところは分からないが、持っている車や時計から判断するに余裕があるというのは間違いないと思う。
「俺と弟のことなんだけど・・・」

刺し身を口にいれながら、友人は言った。
彼の愚痴には彼の弟が関係してくるらしい。
彼に弟がいるのは知っていた、そして、その弟も彼同様に頭が良いみたいで、高学歴と言われる大学を卒業した後、一流企業に就職していることも。友人とその弟の関係自体は特に悪いというわけでもなく、いたって普通とのこと。ただ、周囲が何かにつけて彼と弟を比較し、彼を見下すような発言をすることが彼の悩みだった。
まずは友人の両親、彼の両親は彼にも大学に行って欲しかったみたいだが、その意見を無視して就職。当時は担任の教師も含めて色々と大変だったようだ。その反動か、親の希望通り、そして、期待以上の大学に進学した彼の弟を持ち上げ、溺愛し、事あるごとに「弟はこうなのにお前は・・・」という話をするようになったみたいだ。
結果的に、彼は就職後しばらくしてから家をでて、それからは元旦の挨拶に1時間ほど実家に寄るぐらいの関係らしい。短時間しか滞在しないのは、親戚にも同じようなことを言われることが理由のようだ。

そして、彼の彼女。
最近、結婚の話が具体的にでたようで、彼女の家に挨拶に行った時のこと。彼女の父親からも彼と彼の弟の学歴や勤務先を比べて、彼に対して不満があるような言い方をされ、彼女もなぜか彼女の父親よりの意見を出したようで、さらにお金があってもね・・・というようなことを言われたらしい。
結局結婚の話はうやむやになったと言っていた。

「多分別れることになると思う。」

ビールを一口飲んだ後、彼は言った。自分でもそうする。

「なんか、周りから正しく評価されていない気がする。」

水でふやけた割り箸の紙を右手でいじりながら、友人は呟いた。
それは多分、評価の基準が人によって違うからだと思う。
彼女の父親は友人のことをよく知らないので、その判断基準として学歴と勤務先で友人を評価したんだろう。そして、その基準でいけば彼の弟の方が良く見えてしまい、できれば彼の娘には、友人の弟のような人と結婚して欲しかったと思ったに違いない。

彼の両親は、言うことを聞くかどうかで判断したんだと思う。言うことの聞かない兄より、言ううことを聞く弟、さらにその弟が期待以上の結果をだしたものだから、その分弟の評価が高くなったのだろう。
それに、学歴や勤務先の方が、他人に自分の息子を自慢しやすいというのもあるかもしれない。
「私の息子、○○に勤めているんです。」
と
「私の息子、年収1000万超えているんです。」
なら、前者の方が言いやすい。どっちも言われた方は困るだろうが。

友人の彼女についてはよく分からない。

もし、年収を価値基準としている人がいたら、学歴があろうが、大企業勤務だろうが、年収の多い友人の方を評価するだろう。

友人が悩んでいるのは、たまたま彼の周りに、学歴や勤務先で他人を測る人間が多かっただけだと思う。他人からの評価ではなく、自分の価値基準をきちんと持ち続けることが大事。あまり気に病むと、今度は自分が年収の高い低いだけで他人を評価するようになってしまう。

こんなことを熱く語りながら、そういえば自分には年収も学歴もないことに気づいて涙が出てきた。
その日は友人のおごりだった。