立ち食いそばで人手不足の闇をみた

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先日、用事があって昼食を食べられなかったことがあった。用事が終わったのは午後2時過ぎ。お腹いっぱい食べるには微妙な時間だが、晩御飯まで耐えられそうにはなかったので、何か軽くお腹に入れようと思った。 カフェに行くか、コンビニで適当に済ますか、そんなことを考えているときにたまたま目に入ったの立ち食いそばの看板。10年以上前だが、その場所の近くでアルバイトをしていたこともあり、当時はよくその立ち食いそばに通っていった。 懐かしさと手頃さから、そのお店で小腹を満たすことに決めたのだが、まさかこんな現実を見せられる子ことになるとはその時思ってもいなかった。

暗い店内

僕が通っていた当時、その立ち食いそばには、(この人毎日いるんじゃないか?)と思うぐらい、いつも働いているおばちゃんがいた。シャキシャキ動く明るい人で、常連のお客さんからもよく話しかけられていた。さすがに当時すでにかなりの年齢だったし、もう働いていないだろうなと思いながらドアを開ける。やっぱりおばちゃんはいなかった。正直、おばちゃんの顔は覚えていないし、名前も知らない。ただ、かつてそのおばちゃんがいた時のような明るい雰囲気が店内に全くなかったことが僕にそう思わせた。 店内は暗かった。物理的な意味でなく、雰囲気的な意味で。 僕以外に客はおらず、入ってすぐのカウンターには従業員らしきおばちゃんが二人。一人はカウンターの中でスマホをいじっており、もう一人は洗い場で一心不乱に洗い物をしている。どちらもこちらの方を全く見ない。もしかして営業中じゃないのかな?と思い、一度外にでて改めて確認するも、ドアにはきちんと”営業中”の札がかかっている。念の為営業時間も確認したが、日曜日の午後2時半はやはり営業時間内だった。 営業中であることを確認したので、改めて店に入り直す。しかし、おばちゃんたちは相変わらずこちらに一瞥もくれない。まるでウルトラマンのワンシーンを見ているかのようだった。ただひたすら与えられたことだけをする宇宙人たち。そんな妄想を振り払いながらカウンターへと近づき、スマホをいじっているおばちゃんに向かって、”月見うどん”を注文した。この店は食券制ではなく、注文したものを受け取った時に料金を支払うシステムだ。非効率だとは思うけども、このシステムは当時から変わっていなかった。 洗い物の音で注文が聞こえなかったのか、おばちゃんはスマホをいじる手を止めない。今度は少し大きめの声で注文している。おばちゃんは変わらずスマホをいじっていたが、もう一人のおばちゃんに向かってオーダーを作るように指示した。 しかし、指示されたおばちゃんは絶賛洗い物中だ。手を休める気配もない。僕はそれ以上何も言えず、それから1分ぐらい店内には洗い物をする音だけが流れていた。

うどんはでてきたけれども

洗い物を終えたおばちゃんが月見うどんを作るためにやっと動き出す。といっても立ち食いそばなので、冷凍の麺をお湯にいれて数分待つだけだ。しばらくして麺ができたことを示すアラームがなった。頼りない手付きで湯切りをするおばちゃん。無事に麺を入れ、ネギを入れ、そして揚げをのせていく。この時点で嫌な予感をしたものの、集中しているおばちゃんを邪魔するのも悪いので黙って見守ることにする。ちなみにもう一人のおばちゃんはずっとスマホをいじってる。スマホを使った発注作業をしていると信じたい。 そしておばちゃんはうどんのつゆを入れて、こちらに差し出そうとする。でも卵が入っていない。僕が知っている月見うどんは、うどんに卵が入ったものだ。揚げではない。僕が知っている世界では揚げの入ったうどんはきつねうどんと呼ばれていたはず。 そんな僕の視線に気づいたのか、おばちゃんは 「きつねうどん・・・でしたっけ?」 と聞いてきた。 ここはやっぱり僕がいた世界で間違いないなと再確認すると同時に、疑問形になるのなら、なぜ揚げを入れる前に聞かなかったのかを問いただしたい衝動に駆られた。その衝動を抑え、 「いや、月見ですけど・・・。」 とだけ言う。それを聞いたおばちゃんは困った顔をしたので、僕は未だにスマホを触り続けているおばちゃんに向かって、 「僕、月見うどんって言いましたよね?」 と尋ねるも、返ってきた答えは 「そうだと思いますけど、私今休憩中なんで分かりません。」

薄々気づいてはいたが、やっぱりスマホをいじっているのは発注作業などではなかった。いや、休憩するなら裏ですればいい、とか、月見うどんのオーダー入りましたよって言ってましたよね?とか色々と言いたいことはあったが、僕が言えたのは、 「もう・・・きつねでいいです。」 だけだった。ここまでくるともう面白い。 他にもお客さんが入ってきていたし、月見を選んだのはたまたまメニューが目に入ったからで、べつにきつねうどんでも良かった。僕はきつねうどんのお金をおばちゃんに渡して、無心でうどんを啜った。

人手不足の闇

ここで終わると立ち食いそば屋に対するクレームのようになってしまうが、そんなつもりは全く無い。むしろ、途中から面白すぎて早くこのことを他の人に話したいと思ったほど。事実色んな人にネタとして話している。 もちろん、休憩するならバックヤードに行ったほうがいいとか、せめて注文したものはだしてほしかったと思う部分もあるものの、それだとあまりにも普通すぎる。いや、本来は普通なのが一番だと思うが、その時はあまり楽しくない用事を終えた後だったので、気分を変えることができて逆に良かったと思う。 ただ、なんとなく人手不足の大変さを感じた秋の午後。